Canpath
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サカルトゥエロという国

パレスチナ駐在中に紛争がまだくすぶっているグルジアに休暇に行く奴があるか、と、本部と揉めた。確かに。あれは2008年。北京オリンピック開催とほぼ同時に開戦したのを覚えている。開会式で映されたロシア大統領の顔を見て、こんな祭典に顔を出しながら裏で戦争を始めるなんてどんだけ神経図太い人なんだと思った覚えがある。ロシアという大国がグルジアという小国に陸海空とすべての軍を用いて攻め込んだのだから、グルジア側の恐怖たるや凄まじかったことだろう。

本部の言うことは正しく、外務省の海外安全情報を見ると、国境付近を中心に結構赤い。そこらには近づかないということを条件に、承認をもらった。行きたかったんだもん、グルジア。


グルジアの首都トビリシにある空港に着いて、とんでもないことがわかった。
第一に、グルジアでは独自の文字を使っていた。第二に、国の名前はグルジアではなく、サカルトゥエロだった。以上二点が発覚し、僕は完璧に不思議の国に迷い込んだ。むしろ迷い込む感覚がほしかったので、今回も予習ゼロ、地図なし、ガイドブックなしで、計画的に事が運んでいることに満足する。

トビリシでホステルに着くまでに何度も道に迷ったおかげで、サカルトゥエロ人が親切な人たちだということはわかった。ある意味それ以上の情報は必要ない。サカルトゥエロに来た理由はまず友達がいることと、そして自分がまったく何も知らない国だったから。ホステルに着くと、他の旅人たちが聞いたこともない街について色々話している。聞いたこともないばかりか、僕にはうまく発音すらできない。

旧友のカテは相変わらずだった。まず小粋なカフェに僕を連れていき、この3年間お互いの身に降りかかったあれやこれやの四方山話を交わした。それからトビリシを見下ろす公園から夜景を見て、スーパーマーケットに行って取り急ぎ必要なもの、飲み物、シャンプー、朝食などを揃えさせてもらった。それから、ホステルから徒歩圏内の飲み屋やレストランの場所、おいしいパン屋などを教えてもらった。明日からは本格的にトビリシを見せてもらう。


僕はカテに連れられトビリシ旧市街の方へ行くことになった。雰囲気のいいレストランの並ぶ道の先に教会がある。

「別にいっつもこれをするってわけじゃないんだけど、とりあえずあなたには基本を見せなきゃと思って」と言って、カテは頭にベールをかぶり、十字を切って教会に入る。
「ちょっと蝋燭を買うから待ってて」と言って、カテは売店に行った。
「こっち来て」
「はい」
いちばん大きな十字架の前に立って一つ目の蝋燭に火をつける。
「まず、死んだ親族や祖先のために」十字を切る。
「次に、聖ジョージに」聖ジョージのイコンの前に行き、蝋燭を灯し十字を切る。
「次に、キリストに」同じくキリストのイコンに。
「それからマリアに、家族の健康を祈って」マリアのイコンに。
「というように、4つの蝋燭を灯すのが基本かな」
「ほう」

「あそこに新郎新婦がいるでしょ。9月の特に土日は結婚式ラッシュなの。だからこれから式の様子が見れるわよ」
他にも2組のカップルが現れ、牧師が3組のカップルを同時に結婚させようと式を開始した。始める前に牧師が何やら大きな声で演説をした。
「教会の中では静かにするようにって、みんな怒られちゃった」
「ははは」
牧師は十字を切ったり、新郎新婦にティアラをかぶせたり、それにキスをさせたり、何やら呪文を唱えたりと忙しい。最後は祭壇の周りを新郎新婦全員とその証人たちを連れて3周し、式が終わった。緊張感のあった教会に笑顔があふれる。
「大体の場合、これから彼らは車で役所に行って入籍を済ませるの」
「ふうん」

結婚式を見た後も旧市街をぐるぐる回り、サカルトゥエロやトビリシにまつわる伝説や歴史をたくさん教えてもらった。足が棒になるまで歩いて、今日の観光は終わった。持つべきものは友である。

この記事を書いた人

一風
現在地:イギリス
オランダの大学院を出て人道支援を始める。現在国際機関に勤務。

一風さんの海外ストーリー