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デンマーク発「生の学校」フォルケホイスコーレ

私は今回の留学でアメリカに約半年間滞在した後に、デンマークとスウェーデンを回って帰国しました。
それは、「フォルケホイスコーレ」という、デンマーク発祥の学校を見学するためでした。
では、「フォルケホイスコーレ」とは何なのか、お伝えしたいと思います。

フォルケホイスコーレのはじまり

フォルケホイスコーレ(以下フォルケ)は英語で「Folk High School」日本語で「国民高等学校」や「国民大学」と訳されます。

そのはじまりは1844年にグルントヴィという思想家が始めた、農民の農閑期のための学校です。
一般的な大学とは異なり、個人の成長を通して農民に高等教育を提供することを目的としていました。
その後デンマーク全土、スウェーデンやフィンランドといった北欧、ヨーロッパ各地に広がっていきました。

今回私が訪問したフォルケの一つ、「Rodding Folk High School」はまさにそのグルントヴィが始めた世界最古のフォルケで、現在もクラシックな考え方を引き継いで運営がされています。
Rodding 授業2.JPG

フォルケの教育システム

寄宿制で、数か月寝食を共にします。
イメージとしては期間の長い自然教室のようなかんじです。
最低でも2名の教員が校内に住むことが義務づけられており、Roddingではほとんどの教員が校内に住んでいました。

食事は先生も生徒も一緒に。
校内で開催されるパーティーでも、先生も生徒もみんなでお酒を飲み親睦を深めます。
寝食を共にする中で教科の勉強をするだけでなく、人として育っていきます。

学習内容は学校によって様々なのですが、芸術(絵画、陶芸、木工など)や文学、ジャーナリズム、音楽、運動、料理などがあります。

どの教科にも共通しているのが、試験がないということです。
これも国の方針で、フォルケでは試験をしてはならないことになっています。
この方針はもともと、グルントヴィがフォルケの目的である自己啓発それ自体が十分な報酬であるとしていることに基づいています。
教育方針はグルントヴィの思想に基づいており、中でもデンマークの歴史や言語、産業や民謡に重点が置かれています。

毎日8時頃までに朝食を食べ、授業を受けて昼食、3時4時頃まで再び授業を受け、夕食の前後は自由時間、というのが一日の流れです。
Rodding 昼食.JPG

フォルケに通う生徒

学校によって差があるものの、デンマークにおいては高校と大学の間のギャップイヤーに通う人が多いそうです。
学校によっては移民の受け入れを積極的に行っている学校もあり、そういった学校では人種も年齢も様々です。
デンマークでは学費はすべて無料ですが、フォルケはそうではありません。
多くの人がギャップイヤーのはじめに働いて貯金し、そのお金で通うそうです。
それだけここでの学びには重みがあり、みんな学びに貪欲です。

また、前述のようにフォルケでは試験はなく、なにか資格が与えられるわけでもありません。
では何のために通うのかというと、教養のため、自分の将来の方向性を決めるため、といった声を多く聞きました。
直接的に大学で求められる知識に関連したことを学んでいるわけでもなく、様々な体験や学びを通して自分自身が本当にしたいことを見つけようとしているのです。

“A School for Life”―生のための学校―

大衆教育と自己啓発に焦点を当てるものとして、グルントヴィはフォルケを「生のための学校」と位置付けています。

フォルケがそう呼ばれる所以はいくつかありますが、私が実際に訪問してみてそれを体現していると感じたのは、先生と生徒、双方の特徴的な姿でした。

先生はまず、自分がTeacher(教える人)であるとは思っていません。
Supporter(支える人)でありFacilitator(思考を促進する人)である、と多くの先生が口々に言っていました。
生徒たちが“Who am I”を突き詰めること、それを支えることが自分たちの役目だと言います。
そして、フォルケで教師になるということは職業を選んだのではない、生活を、人生を選んだのだと言うのです。

先生と生徒という関係性ではなく、先導者として人として向き合い、共に学び成長する。
とても素敵な姿勢です。

それに対して生徒側も、この本質を理解しています。
試験がないからこそ自分で学びたいだけ学べる、と深夜まで図書館で勉強している姿。
ドキュメンタリーの上映会を自主的に開催する姿。
かと思えばみんなで卓球をしたり、お酒を飲んだり。
そんな風に人生を楽しみ、学び、直接的にも間接的にも自分の真理に近づいているのだと感じました。
  


  
日本とは考え方が異なる部分が多くあり、そのまま導入することは難しいと思います。
でも、フォルケの根底にある考え方はとても素敵で、見習いたいと心から感じました。

「自分とは何か」-この問いに向き合う時間と機会が、もっと必要だと思うのです。
そしてその時間が人生を豊かにするのではないでしょうか。

この記事を書いた人

Kayo Matsunaga
現在地:日本
福岡県出身 九州大学 教育学部 社会教育、生涯教育、大人の学び直し、あそび、公園 パン屋めぐり、散歩 トビタテ!留学JAPAN 3期生 シアトル、コミュニティカレッジ スウェーデン、デンマーク、フォルケホイスコーレ

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