Canpath
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人道支援、辞めます

もう限界だ。僕は大好きな人道支援という仕事を、泣く泣く辞めることにした。

どんな気分か。辞めると決めてからいろんな人たちにこれを聞かれて答えに窮してきたけど、僕の気分を正確に表現する答えが見つかった。第一線でプレーしてきたアスリートが、突然の怪我を理由に引退を余儀なくされた気分にとても近いと思う。でもアスリートじゃないから、第一線かどうかは見方による。目に見える怪我じゃないから、怪我かというとそうではないかもしれない。でも引退は引退。違う人生、違うアイデンティティを探さなきゃいけない。今この瞬間を生き抜くことで精一杯で、まだそんな先のことは到底考えられないけれど。

アムステルダムにある大学の研究チームが僕の症例に興味を示してきた。人道支援者という動物は、宇宙飛行士のように、学術界において未だに研究の進んでいないサンプルで、様々な角度から科学的な実証の対象となる。たくさんの質問に答えながら、自分という存在が浮き彫りになっていく。チームが送ってくれた先行研究の論文にはおなじみElsevierのロゴがついている。スウェーデンのなんとかっていう大学とも共同研究の提携がされているらしい。けど僕はたぶん彼らが求めているようなサンプルではないだろうな。躁鬱、拒食、夢遊病、不眠みたいな症状はそもそも出なかったし、そうなる前に止めてくれた友達が僕の周りにはたくさんいたから。

出国は12月16日と言い渡されたけど、もしそれまで自分が倒れなかったとして、どこかの時点で倒れると思う。そんな気がする。飛行機が南スーダンの土を蹴った瞬間か、スイスの地に着陸した瞬間か、ジュネーブ本部の医師の前か、ロンドンで友達の顔を見た瞬間か、横浜港を目にした瞬間か。そしてたぶん周りにいる見ず知らずの人たちは思うのだろう。この人、なんで倒れてるんだろう。どうかしたのかなって。

あれだけの悲劇を生み出した太平洋戦争も、開戦から終戦までたった4年半程度。これまで紛争地駐在はパレスチナとアフガニスタンを含め足掛け4年となった。簡単に比べられるわけではないけれど、一度倒れるくらいで済むなら上々だと思う。今、息も絶え絶えなのも仕方ない。どう立ち上がるかの方がよっぽど重要だ。

この記事を書いた人

一風
現在地:ミャンマー
オランダの大学院を出て人道支援を始める。現在国際機関に勤務。

一風さんの海外ストーリー