Canpath
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雲の中に忘れられた街

アカバの国境は意外と簡単に越えられた。ヨルダン・ハシミテ王国に入り、ツーリスト料金を頑なにごり押しするタクシーの運ちゃんにうんざりしながらバス乗り場へ。行先は、ペトラ。アラビア語が通じるため、非常に助かる。地図は持っていないけど、この国で路頭に迷うことがないという安心感は、何物にも代えがたい。

マーンという街でバスを乗り換えるために降車。砂嵐が来た。と思ったら雨が降り始めた。礫砂漠に雨の降る非現実的な景色の中、バスはペトラへ向かう。普通は雲がないためこの表現はおかしいはずだが、雲の近くにある町、ペトラに着いた。ホテルにチェックインしてすぐ、とりあえず遺跡の方へ向かう。雨は止んだ。足取りは軽い。

ビジターズセンターで2日有効券を買い、遺跡群の待つ園内に入る。耳の中でインディ・ジョーンズのファンファーレが鳴り始める。両側を断崖絶壁に挟まれた古代の回廊は、否が応でも冒険心を掻き立てる。

そして2キロほど歩いたところで、「宝物殿」と呼ばれる巨大な遺跡が顔を出した。小雨が降り始め、遺跡のある断崖を黒く染めた。圧巻。
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暗くなるのは避けたいため、今日はこれにて退散。帰り道、馬に乗ったベドウィンが、「エアコン付きのタクシーはどうだい?」と声をかけてきた。座布団一枚だな。


6時起床。7時前には朝食を食べてホテルを出る。すごい霧だ!10メートル先は真っ白で見えない。

とりあえず、ビジターズセンターまで行って様子を見る。英語のツアーガイドを雇っている団体客がいないかと待ってみるが、なかなか来ない。少し躊躇したが、天気が悪いから冒険しないインディ・ジョーンズなんて聞いたこともないため、一人で園内に入ることにした。

昨日見た宝物殿でもう一度溜息をついてから、どんどん奥の方に入っていく。すると、雲を被った岩山に囲まれた幅の広い渓谷が見えてきて、荒廃した石窟神殿や コロッセオで敷き詰められた大遺産群が目の前に現れた。霧も浅くなって、幻想的な光景が広がる。文明の名残が自然美と溶け合っている。

スウェーデン人の団体客が、流暢な英語を話すベドウィンのガイドを受けていたので、それにひっついて回ることにした。ナバテア人がこの遺跡を建造し始めたのが紀元前3世紀ごろ。そしてローマ人たちの侵入が紀元後2世紀ごろ、五賢帝の二人目トラヤヌス帝の時代。高校の世界史の授業で「トラヤヌス帝=最大版図」と覚えたのを思い出す。キリスト教化しつつ遺跡の建設は続けられ、繁栄するも、4世紀と7世紀にあった大地震により多くの住居が崩れ、街自体が機能しなくなり、見捨てられてしまったということらしい。

通称「修道院」と呼ばれる遺跡は神殿群からさらに高い場所にあり、一時間ほどの登攀が必要だ。僕は時々雨が山を濡らす中、着々と歩を進めた。

修道院は、おそらく石窟神殿群の中でいちばん完全な形で残っているものだ。低い雲がすぐ近くを通り過ぎている。天空に築かれた文明のシンボルと形容できよう。

修道院を後にして、もう一度遺跡群を一人でひた歩き、帰途に就く。すると、堰を切ったような土砂降りが始まった。帰るための道はあっという間に濁流となり、僕は岩の窪みでこの鉄砲水が去るのを待った。子ども連れの人たちが警察のジープで避難している。

雨が止み、鉄砲水も収まってから、ホテルまで歩く。水が流れる枯川を物珍しそうに眺める地元の人たちがやけに滑稽で笑ってしまった。

この記事を書いた人

一風
現在地:イギリス
オランダの大学院を出て人道支援を始める。現在国際機関に勤務。

一風さんの海外ストーリー